[機材紹介]Solid State Logic Sigma
Solid State Logicのサミングアンプ、Sigmaをご紹介します。
概要
Solid State Logic社はご存じの通り、世界のレコーディングスタジオに多数ミキシングコンソールを納入しているメーカーです。
うちのような小規模なスタジオにはサイズ的にも金額的にもとても導入できるものではありませんでしたが2004年のAWS 900シリーズのリリース以降、DAWとの連携を重視した小規模な製品も開発するようになってきました。
このSigmaは2013年にリリースされたサミングアンプです。
DAW内部で作ったステムミックス(ドラムやボーカル等、各パートごとのサブミックス)をアナログでミックスするために使います。
そのため各チャンネルのパンやレベルのコントロールはDAW内部で済ませられるので、そのようなツマミは付いていない機種もよくあります。
さて、Sigmaにはオートメーション可能なステレオ16chの入力、インサートポイントを持つ2つの出力バス、各種モニターコントロール機能があります。さらにパンやボリュームも付いているので純粋なサミングアンプというよりはデジタルコントロール可能なラインミキサーという方が近いかもしれません。
各チャンネルの設定などはWebブラウザから行います。反応は遅く、お世辞にも素晴らしい出来のソフトウェアとは言えません。以前持っていた同社のX-Patchのソフトウェアもすごく使いにくかったので、ソフトウェアの、特にUIの開発はあまり得意ではないようです。
ちなみにSigmaを導入するまでは日本が誇るガレージメーカー、n-toschのs-mix miniを使っていました。同製品もSSLのミックスバス回路を使ったものです。
ポイント
- DAWからイーサネット(上のMIDI情報)を利用して各チャンネルのオートメーションができる。
- 各チャンネルはモノ扱いにすることも可能。その場合は奇数チャンネルのみ出力される。
- 出力バスのインサートはリターン信号をミックスすること(パラレル処理)が可能。
- 2つめの出力バス”B”を出力バス”A”に統合可能。
- 各チャンネルのVCA出力のダイレクトアウトを装備。オートメーション機能のみを使い他のゲイン固定型サミングアンプでサミングする際などに有用。
- マスターフェーダーのオートメーションも可能なので、フェードアウトなどもできる。
アナログサミングのメリット
さて、長年議論されてきたアナログでサミングすることによるメリットとは何でしょうか。
近年のDAWはProToolsですらも浮動小数点演算になりデジタルミックスバスでの飽和はかなり緩和され、クリーンなミックスができるようになったとみて良いでしょう。最初からNuendo使いの私にはあまり実感がありませんが。
対してアナログ機材を通すことは多かれ少なかれ歪みを生みます。歪みが生まれると高調波、つまり倍音が生まれます。Sigmaであれば入力、VCA(フェーダー)、インサート、出力とたくさんのアンプ回路を通ることになります。当然、回路それぞれの周波数特性も重なっていきます。
パンチを生み出したり、倍音成分でミックスのつながりがよくなったり、というアナログ回路のマジックのようなものは、こうして生まれるのだと思います。
たくさんのメーカーがそれぞれの哲学に基づいてサミングアンプの新製品を出し続けていることからもわかります。真空管やトランスをサチュレートさせて積極的に倍音を付けるものもあります。
最近はこの歪みをシミュレートするプラグインもWavesやSlate Digitalが出しています。Slate DigitalのTHE VIRTUAL CONSOLE COLLECTIONはとても良くできているので、お試しあれ。
音質
あくまで個人的な評価ですが、このSigmaはほんの少し明るめの傾向はあるものの、基本的にはすっきりクリーンな方向です。入出力がトランスレス(だと思う)のためでしょうか。
「現代的な」音という印象で、決してローがないとかハイ上がりという意味ではありません。
そのうちご紹介しようと思いますが、付属の電源がごく普通のACアダプタなので電源ユニットをちゃんとしたトランスを使った特注の安定化電源に変えたところ劇的に音が良くなりました。電源ケーブルを変えるどころの変化ではありません。良質なアナログ機器の音になりました。
SSLさんも、定価で50万円もするのだから電源はまともなものを付属させるべきだと思うのですが・・・。
使い方とまとめ
私の場合はアナログでサミングした後、アナログコンプやEQで音を整えてLAVRY AD122mkIIIで再びA/Dします。
ベースやボーカル等、センターに位置するものはモノチャンネルとし、2つある出力バスは”B”をドラム用にしてNeve 33609をパラレルでかけ、メインの出力バス”A”に戻しています。
各機器には”おいしい”ポイントがありますので、それを探るのに時間が掛かってしまいましたが今はこのやり方がとてもしっくりきています。
ITB(In The Box / 内部)ミックスでももちろんいい音を作ることはできますし、アナログで混ぜたから必ずいい音になる、というわけでもありません。特にレベルの取り方はとても重要です。ちょっと前の自分に説教してやりたいです。
当たり前のことですが要は使い方、ということですね。